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- 睡眠導入
- 師弟
- 年上
- 癒し
公開日2025年02月20日 23:09
更新日2025年02月20日 23:09
文字数
4291文字(約 14分19秒)
推奨音声形式
バイノーラル
推奨演者性別
女性演者向け
演者人数
1 人
演者役柄
錬金術師の師匠
視聴者役柄
住み込みの弟子
場所
師匠の自宅、リビング
あらすじ
とある錬金術師の下で住み込みの弟子になってから数年が経った。
家事をこなしながらの勉強の毎日は、大変ながらも充実している。
けど、たまに……鏡に映った「いつまでたっても見習いの自分」の姿に、焦りを覚えることもあって。
そんなときは、つい、夜通し机に齧り付いてしまうこともある。
当たり前だけど、睡眠不足は翌日に響く。
昼間、いつも通りに書庫で勉強していると、強烈な睡魔に襲われた。
寝ちゃだめだ、寝ちゃだめだ。
言い聞かせている間にも、瞼は重くなる一方で……。
「君はもう少し、師匠に甘えるってことを覚えなさい」
それを師匠に見つかって、子供みたいに叱られた。
そんな、暖かい夕方の物語。
家事をこなしながらの勉強の毎日は、大変ながらも充実している。
けど、たまに……鏡に映った「いつまでたっても見習いの自分」の姿に、焦りを覚えることもあって。
そんなときは、つい、夜通し机に齧り付いてしまうこともある。
当たり前だけど、睡眠不足は翌日に響く。
昼間、いつも通りに書庫で勉強していると、強烈な睡魔に襲われた。
寝ちゃだめだ、寝ちゃだめだ。
言い聞かせている間にも、瞼は重くなる一方で……。
「君はもう少し、師匠に甘えるってことを覚えなさい」
それを師匠に見つかって、子供みたいに叱られた。
そんな、暖かい夕方の物語。
本編
こら、バカ弟子。
(軽く頭を叩かれ、目を開ける)
(呆れながらも、優しそうな師匠の顔)
昼寝するのは構わないけど、寝るならまともなベッドで寝なよ。
それが嫌なら、せめて日の当たる場所で眠りなさい。
こんな薄暗い書庫で、布団もかけずに机に突っ伏したりして……。
(両手でこちらの右手を包んで)
ほらみろ、手がこんなに冷たくなってるじゃないか。
錬金術師にとって一番大事な実験道具は自分自身の指先だよ?
それをこんな粗末にして……いくら勉強熱心だとしても、これはちょっといただけないな。
……そう、わかればよろしい。
さ、面倒だろうけど移動なさい。
リビングのソファ、あそこならちょうどいいんじゃないかな。
日向だけど、眩しくない。
暖かくて、うるさくない。
ウトウトするには最高の場所だよ。少なくとも、この家の中ではね。
先に行って、待っててくれるかい。
私も後から、お邪魔させてもらうから。
(のそのそと移動する)
(少しして、師匠がやってくる)
お待たせ。
隣、座るね。
(寄り添うように、真隣に座る)
思いがけず探し物に手間取っちゃったよ。
とりあえず、はい、毛布。
(手渡される、薄手の毛布)
それ掛けて、横になりなよ。
枕なら、私の膝を使って構わないから。
……む、遠慮する気だな?
顔見りゃ分かるよ。
座ったまま寝るから平気……とか言うつもりなんでしょ。
まったく……。
そんな野暮なやつには、こうだっ!
(肩を抱き寄せられ半ば無理やり膝枕の格好に)
ふふん。
流石にここまですれば、意地っ張りな君でも諦めがつくだろ。
(ゆっくり、頭を撫でながら)
君はもう少し、師匠に甘えるってことを覚えなさい。
頑張り屋なのは君の確かな長所の一つだけれど、立ち止まらずに走り続けようとすることが必ずしも自分のためになるとは限らない。
疲れたときは、ちゃんと休む。
それも修行の一部だよ。
……うん、いい返事。
それじゃあ、素直な弟子には、ちょっとしたご褒美をあげることにしようかな。
……おいおい、そんな疑わしそうな目で見なくたっていいじゃないか。
傷つくなぁ、そんなに信用ならない師匠なのかな、私は?
心配しなくても、変なことしないっての。
耳かきだよ、耳かき。
以前にも一度、君が風邪を引いたときにやってあげたことがあったでしょう?
あの時の君が大層気持ちよさそうにしてたのを思い出してね。
寝不足で疲れてる今の君も、同じような顔をしてくれるんじゃないかと思ったんだけど……余計なお世話だったかな?
……ふふ、ありがとう。
なら、お許しも出たことだし、遠慮なくお昼寝の手伝いをさせてもらおうかな。
さあ、力を抜いて。
(右の耳かき開始)
(しばらく、黙って耳かきを続ける)
……ん、どうした?
伝えたいことがあるのなら、何でも吐き出してくれていいんだよ。
……おやまあ、何かと思えば。
随分寂しいことを言ってくれるじゃないか。
「ありがとう」ならともかく「ごめんなさい」とはね。
……謝らないでくれよ。
私はこれっぽっちも怒ってないんだから。
まあ、確かに?
書庫で居眠りしてた君の姿を見て、何も思わなかったと言えば嘘になる。
いつもは昼寝なんかしない君があんなところでああしていたんだ。どうせ昨日の夜、睡眠時間を削って勉強してたんだろう?
あれほど私が、無理はいけないと日頃から言い聞かせてるっていうのにさ。
そりゃあ、叱るよ。
当然ね。
だけど、だからといって私が不機嫌になっていると誤解してほしくはないな。
弟子の努力に腹を立てる師匠がいるもんか。
私はただ、心配なだけ。
さっきも言ったけど、頑張り屋なのは君の立派な長所だよ。
でもそれは、うっかりすると自分自身を傷つける諸刃の剣になりかねない。
一生懸命なあまりに自分の限界を見失って、もし体を壊したりしたらどうするんだ?
頑張って頑張って頑張って……脇目も振らず、水も飲まずに走り続けて。
気づいたら目的地に辿り着く前に倒れて動けなくなりました。
そんな結末、私は見たくないんだよ。
いいじゃないか。
時には、師匠の膝の上で呑気に昼寝する日があったって。
眉間に皺を寄せてばかりでは、笑い方を忘れてしまうよ?
しかめっ面しかできなくなってしまったら、いずれ一人前の錬金術師になれたとしても楽しくないよ。
……うーん。
今ひとつ響いてなさそうだねぇ。
目立った耳の汚れは取れたようだし、私の声が届いてないはずないんだが。
薄々分かっちゃいたことだけれど、どうやらよほど難儀な性格をしてるらしいな、君は……ま、私も似たようなものではあるけどさ。
仕方ない!
梵天でも弄りながら、もうちょっと小言を続けるとするか。
(右の耳かき終わり)
(右の梵天開始)
……言い訳みたいに聞こえるかもしれないけどさ。
君が抱えてるもどかしさに、気づいてないわけじゃないんだ。
……すまない、とも思ってる。
この前の誕生日で、君は、君が弟子入りした日の私の年齢に追いついた。
元々そこまで歳が離れてたわけじゃないからね、遠くない日にそうなるってことは、私も承知していたよ。
あの頃から私は……自分で言うのは烏滸がましいけれど、まあ、錬金術師としてそれなりの成果を挙げていて。
だけど君は、今日も、弟子であり、助手であり、修行中のまま。
……そりゃあ、悔しいよね。
焦れったくもなる。歯痒くもなる。不安にもなる。……恨まれたとしても、私に文句を言う資格はない。
それでも私は……君に、今の歩幅を変えて欲しくないんだ。
どう言えば綺麗に伝わるかなぁ。
……私はね。
君に、私みたいになってほしくないと思っているんだ。
(梵天終わり)
寝返り、打てるかな。
あっちを向いて、窓の向こうの庭でも見ながら、話の続きを聞いてほしくてね。
(従うと、師匠は嬉しそうに)
うんうん。
さあ、よく見てごらん。
(左の耳かき、開始)
いい眺めじゃないか。
西に傾きかけた太陽の光を、背伸びした下草が反射して。
それを見守るツツジの生垣が、穏やかな風にたなびいて。
プランターに並んだ花の表情は十人十色の賑やかさで、けれど、どれも楽しそうで。
隅っこにポツンと置かれたウッドテーブルが、いつでもどうぞ、って微笑んでる。
……これは、君が作った風景だよ。
覚えてるでしょう?
君と私が出会った頃……私が1人で暮らしていた頃のこの家が、どんなに酷い様子だったか。
伸び放題の雑草に覆われた庭、埃まみれの暖炉、ドアを開けるたびに嫌な音を立てる錆びついた蝶番……ほんと、人が暮らしているとは思えない有様だったよね。
だけど、当時の私は平気だった。
研究に関係ないことは全部どうでもよかったから、家がどんな状態だろうと気にも留めなかった。
君がこの家にやってきて、掃除とか草刈りとかをやってくれるようになって……正直最初は、「せっかく住み込みの弟子になったのになんでそんな余計なことばかりしてるんだろう」なんて失礼なことを思ってたんだけど。
薄暗くて冷たかった家の中が、日を追うごとに、明るく、暖かく変わっていくのが、私にもわかって。
「ああそうか、今までがおかしかったんだ」
「これがあるべき形だったんだ」
……そんな、私以外の誰もが知っていたことに、今更ながら気がついて。
そのとき、思ったんだ。
君には、私とは違う錬金術師になって欲しいな、ってね。
掃除、洗濯、料理……そんなものは、君にとってはできて当たり前の、取るにたらないものなのかもしれない。
でも、そういう「当たり前」が欠けた人間がいかに憐れか、今の私はよく知ってる。
どれだけ知識を集めても、どれだけ技術を学んでも、結局、ひとりぼっちじゃつまらない。
私の真似なんかしようとするな。
そんなことしても虚しいだけだよ。
寄り道して、遠回りして、その途中で出会った人や見つけた景色を楽しんで……君らしい錬金術師の在り方ってやつを、のんびり、ゆっくり、探しなさい。
……私が君に言える「師匠らしいこと」は、きっと、これくらいが精いっぱいだろう。
だから、ってわけじゃあないけどさ。
約束しろ、とは言えないけれど……できれば、覚えていてほしいな。
……さて!
真面目ぶった話はここまで!
思ったより時間も過ぎてることだし、最後にこっちの耳も梵天でなぞって、おしまいにしようか。
(左耳の耳かき終わり)
(左耳の梵天開始)
……ふふっ、それにしても……。
古いことを思い出すよ。
この庭を見ていると。
私が錬金術師を志す前、川沿いの小さな町に暮らす生意気な小娘だった頃……あの当時住んでいた赤い煙突の家の庭に、この景色はよく似てるんだ。
両親が家を留守にすることが多かったから、私は普段、少し歳の離れた姉に面倒を見てもらっていてね。
なんにもやることがない日に、私が部屋にこもって何度も読んだ本を面白くなさそうに読み返してたりすると、姉さんがよくちょっかいをかけにきたものだ。
それこそ、耳かきしてあげようか、なんて言いながらね。
私も姉さんが構ってくれるのは嬉しかったから、いつも喜んで甘えてたよ。
……懐かしいなぁ。
庭を眺めながら、姉さんの膝の上で耳かきとおしゃべりを楽しんで……気持ちよくなったらそのままうたた寝して。
ちょっとだけお昼寝するつもりが気づいたら夜になってたことも珍しくなかった。
そういう時、姉さんは決まって、夕飯に玉ねぎのスープを作ってくれるんだ。
なんでかは知らないけどね。
今にして思うと、多分、いつでも台所にあるような手ごろな材料で作れたからなのかも。
……玉ねぎと適当な野菜くず、それから燻製肉の切れっぱしを薄めの塩味で煮出しただけの、ごく簡単で質素なスープだったんだが、私はやたらそれが好きでねぇ。
一日の終わりに姉の作ったそのスープを飲むと、不思議と悪い夢を見ずに眠れたんだ。
……あ、そうだ。
いいこと思いついた。
(左の梵天終わり)
今日の夕飯は、私が作るよ。
今話したスープ、君にも作ってあげる。
……おい。
そんな露骨に嫌そうな声出すなよ。
大丈夫だって。
確かに私が君の前で料理をしたことはいまだかつてないし、実際茹で卵すらロクに作れないんだけど、このスープだけは大丈夫。
昔、姉さんに直接習ったからね。
何年経とうが、忘れやしないさ。
……ふふん。
そうとも、私はこうと決めたら頑固なんだ。
だから諦めて、ご相伴に預かりたまえ?
(丁寧に、師匠が頭の下から体を退ける)
さて。
それではさっそく準備にかかろうかな。
もう夜も近いことだしね。
……それまで、ゆっくり休んでいなさい。
用意ができたら、起こしてあげるから。
……うん、いい返事。
(優しく一度、頭を撫でて)
おやすみ、私の一番弟子。
……また後でね。
(去っていく師匠の足音)
(瞼を閉じて、微睡に浸る)
(軽く頭を叩かれ、目を開ける)
(呆れながらも、優しそうな師匠の顔)
昼寝するのは構わないけど、寝るならまともなベッドで寝なよ。
それが嫌なら、せめて日の当たる場所で眠りなさい。
こんな薄暗い書庫で、布団もかけずに机に突っ伏したりして……。
(両手でこちらの右手を包んで)
ほらみろ、手がこんなに冷たくなってるじゃないか。
錬金術師にとって一番大事な実験道具は自分自身の指先だよ?
それをこんな粗末にして……いくら勉強熱心だとしても、これはちょっといただけないな。
……そう、わかればよろしい。
さ、面倒だろうけど移動なさい。
リビングのソファ、あそこならちょうどいいんじゃないかな。
日向だけど、眩しくない。
暖かくて、うるさくない。
ウトウトするには最高の場所だよ。少なくとも、この家の中ではね。
先に行って、待っててくれるかい。
私も後から、お邪魔させてもらうから。
(のそのそと移動する)
(少しして、師匠がやってくる)
お待たせ。
隣、座るね。
(寄り添うように、真隣に座る)
思いがけず探し物に手間取っちゃったよ。
とりあえず、はい、毛布。
(手渡される、薄手の毛布)
それ掛けて、横になりなよ。
枕なら、私の膝を使って構わないから。
……む、遠慮する気だな?
顔見りゃ分かるよ。
座ったまま寝るから平気……とか言うつもりなんでしょ。
まったく……。
そんな野暮なやつには、こうだっ!
(肩を抱き寄せられ半ば無理やり膝枕の格好に)
ふふん。
流石にここまですれば、意地っ張りな君でも諦めがつくだろ。
(ゆっくり、頭を撫でながら)
君はもう少し、師匠に甘えるってことを覚えなさい。
頑張り屋なのは君の確かな長所の一つだけれど、立ち止まらずに走り続けようとすることが必ずしも自分のためになるとは限らない。
疲れたときは、ちゃんと休む。
それも修行の一部だよ。
……うん、いい返事。
それじゃあ、素直な弟子には、ちょっとしたご褒美をあげることにしようかな。
……おいおい、そんな疑わしそうな目で見なくたっていいじゃないか。
傷つくなぁ、そんなに信用ならない師匠なのかな、私は?
心配しなくても、変なことしないっての。
耳かきだよ、耳かき。
以前にも一度、君が風邪を引いたときにやってあげたことがあったでしょう?
あの時の君が大層気持ちよさそうにしてたのを思い出してね。
寝不足で疲れてる今の君も、同じような顔をしてくれるんじゃないかと思ったんだけど……余計なお世話だったかな?
……ふふ、ありがとう。
なら、お許しも出たことだし、遠慮なくお昼寝の手伝いをさせてもらおうかな。
さあ、力を抜いて。
(右の耳かき開始)
(しばらく、黙って耳かきを続ける)
……ん、どうした?
伝えたいことがあるのなら、何でも吐き出してくれていいんだよ。
……おやまあ、何かと思えば。
随分寂しいことを言ってくれるじゃないか。
「ありがとう」ならともかく「ごめんなさい」とはね。
……謝らないでくれよ。
私はこれっぽっちも怒ってないんだから。
まあ、確かに?
書庫で居眠りしてた君の姿を見て、何も思わなかったと言えば嘘になる。
いつもは昼寝なんかしない君があんなところでああしていたんだ。どうせ昨日の夜、睡眠時間を削って勉強してたんだろう?
あれほど私が、無理はいけないと日頃から言い聞かせてるっていうのにさ。
そりゃあ、叱るよ。
当然ね。
だけど、だからといって私が不機嫌になっていると誤解してほしくはないな。
弟子の努力に腹を立てる師匠がいるもんか。
私はただ、心配なだけ。
さっきも言ったけど、頑張り屋なのは君の立派な長所だよ。
でもそれは、うっかりすると自分自身を傷つける諸刃の剣になりかねない。
一生懸命なあまりに自分の限界を見失って、もし体を壊したりしたらどうするんだ?
頑張って頑張って頑張って……脇目も振らず、水も飲まずに走り続けて。
気づいたら目的地に辿り着く前に倒れて動けなくなりました。
そんな結末、私は見たくないんだよ。
いいじゃないか。
時には、師匠の膝の上で呑気に昼寝する日があったって。
眉間に皺を寄せてばかりでは、笑い方を忘れてしまうよ?
しかめっ面しかできなくなってしまったら、いずれ一人前の錬金術師になれたとしても楽しくないよ。
……うーん。
今ひとつ響いてなさそうだねぇ。
目立った耳の汚れは取れたようだし、私の声が届いてないはずないんだが。
薄々分かっちゃいたことだけれど、どうやらよほど難儀な性格をしてるらしいな、君は……ま、私も似たようなものではあるけどさ。
仕方ない!
梵天でも弄りながら、もうちょっと小言を続けるとするか。
(右の耳かき終わり)
(右の梵天開始)
……言い訳みたいに聞こえるかもしれないけどさ。
君が抱えてるもどかしさに、気づいてないわけじゃないんだ。
……すまない、とも思ってる。
この前の誕生日で、君は、君が弟子入りした日の私の年齢に追いついた。
元々そこまで歳が離れてたわけじゃないからね、遠くない日にそうなるってことは、私も承知していたよ。
あの頃から私は……自分で言うのは烏滸がましいけれど、まあ、錬金術師としてそれなりの成果を挙げていて。
だけど君は、今日も、弟子であり、助手であり、修行中のまま。
……そりゃあ、悔しいよね。
焦れったくもなる。歯痒くもなる。不安にもなる。……恨まれたとしても、私に文句を言う資格はない。
それでも私は……君に、今の歩幅を変えて欲しくないんだ。
どう言えば綺麗に伝わるかなぁ。
……私はね。
君に、私みたいになってほしくないと思っているんだ。
(梵天終わり)
寝返り、打てるかな。
あっちを向いて、窓の向こうの庭でも見ながら、話の続きを聞いてほしくてね。
(従うと、師匠は嬉しそうに)
うんうん。
さあ、よく見てごらん。
(左の耳かき、開始)
いい眺めじゃないか。
西に傾きかけた太陽の光を、背伸びした下草が反射して。
それを見守るツツジの生垣が、穏やかな風にたなびいて。
プランターに並んだ花の表情は十人十色の賑やかさで、けれど、どれも楽しそうで。
隅っこにポツンと置かれたウッドテーブルが、いつでもどうぞ、って微笑んでる。
……これは、君が作った風景だよ。
覚えてるでしょう?
君と私が出会った頃……私が1人で暮らしていた頃のこの家が、どんなに酷い様子だったか。
伸び放題の雑草に覆われた庭、埃まみれの暖炉、ドアを開けるたびに嫌な音を立てる錆びついた蝶番……ほんと、人が暮らしているとは思えない有様だったよね。
だけど、当時の私は平気だった。
研究に関係ないことは全部どうでもよかったから、家がどんな状態だろうと気にも留めなかった。
君がこの家にやってきて、掃除とか草刈りとかをやってくれるようになって……正直最初は、「せっかく住み込みの弟子になったのになんでそんな余計なことばかりしてるんだろう」なんて失礼なことを思ってたんだけど。
薄暗くて冷たかった家の中が、日を追うごとに、明るく、暖かく変わっていくのが、私にもわかって。
「ああそうか、今までがおかしかったんだ」
「これがあるべき形だったんだ」
……そんな、私以外の誰もが知っていたことに、今更ながら気がついて。
そのとき、思ったんだ。
君には、私とは違う錬金術師になって欲しいな、ってね。
掃除、洗濯、料理……そんなものは、君にとってはできて当たり前の、取るにたらないものなのかもしれない。
でも、そういう「当たり前」が欠けた人間がいかに憐れか、今の私はよく知ってる。
どれだけ知識を集めても、どれだけ技術を学んでも、結局、ひとりぼっちじゃつまらない。
私の真似なんかしようとするな。
そんなことしても虚しいだけだよ。
寄り道して、遠回りして、その途中で出会った人や見つけた景色を楽しんで……君らしい錬金術師の在り方ってやつを、のんびり、ゆっくり、探しなさい。
……私が君に言える「師匠らしいこと」は、きっと、これくらいが精いっぱいだろう。
だから、ってわけじゃあないけどさ。
約束しろ、とは言えないけれど……できれば、覚えていてほしいな。
……さて!
真面目ぶった話はここまで!
思ったより時間も過ぎてることだし、最後にこっちの耳も梵天でなぞって、おしまいにしようか。
(左耳の耳かき終わり)
(左耳の梵天開始)
……ふふっ、それにしても……。
古いことを思い出すよ。
この庭を見ていると。
私が錬金術師を志す前、川沿いの小さな町に暮らす生意気な小娘だった頃……あの当時住んでいた赤い煙突の家の庭に、この景色はよく似てるんだ。
両親が家を留守にすることが多かったから、私は普段、少し歳の離れた姉に面倒を見てもらっていてね。
なんにもやることがない日に、私が部屋にこもって何度も読んだ本を面白くなさそうに読み返してたりすると、姉さんがよくちょっかいをかけにきたものだ。
それこそ、耳かきしてあげようか、なんて言いながらね。
私も姉さんが構ってくれるのは嬉しかったから、いつも喜んで甘えてたよ。
……懐かしいなぁ。
庭を眺めながら、姉さんの膝の上で耳かきとおしゃべりを楽しんで……気持ちよくなったらそのままうたた寝して。
ちょっとだけお昼寝するつもりが気づいたら夜になってたことも珍しくなかった。
そういう時、姉さんは決まって、夕飯に玉ねぎのスープを作ってくれるんだ。
なんでかは知らないけどね。
今にして思うと、多分、いつでも台所にあるような手ごろな材料で作れたからなのかも。
……玉ねぎと適当な野菜くず、それから燻製肉の切れっぱしを薄めの塩味で煮出しただけの、ごく簡単で質素なスープだったんだが、私はやたらそれが好きでねぇ。
一日の終わりに姉の作ったそのスープを飲むと、不思議と悪い夢を見ずに眠れたんだ。
……あ、そうだ。
いいこと思いついた。
(左の梵天終わり)
今日の夕飯は、私が作るよ。
今話したスープ、君にも作ってあげる。
……おい。
そんな露骨に嫌そうな声出すなよ。
大丈夫だって。
確かに私が君の前で料理をしたことはいまだかつてないし、実際茹で卵すらロクに作れないんだけど、このスープだけは大丈夫。
昔、姉さんに直接習ったからね。
何年経とうが、忘れやしないさ。
……ふふん。
そうとも、私はこうと決めたら頑固なんだ。
だから諦めて、ご相伴に預かりたまえ?
(丁寧に、師匠が頭の下から体を退ける)
さて。
それではさっそく準備にかかろうかな。
もう夜も近いことだしね。
……それまで、ゆっくり休んでいなさい。
用意ができたら、起こしてあげるから。
……うん、いい返事。
(優しく一度、頭を撫でて)
おやすみ、私の一番弟子。
……また後でね。
(去っていく師匠の足音)
(瞼を閉じて、微睡に浸る)
クレジット
ライター情報
シチュエーション台本やASMR台本を主に書いています
シチュボというかボイスドラマというか、リアリティラインは微妙な塩梅ですが、楽しんでいただけると嬉しいです
シチュボというかボイスドラマというか、リアリティラインは微妙な塩梅ですが、楽しんでいただけると嬉しいです
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